ジョゼフ・レヴィーン
ピアノ奏法の基礎

中村菊子―訳

全音楽譜出版社
≪目次≫

第一部
  現代のピアノ
  いい加減に教えてはならない初歩
  休止符への無関心と休止符の意義
  リズムに関する勉強
  リズムの豊かな音楽を聴くこと
第二部
  ピアニストになる基本的条件
  聴音の訓練の価値について
  理想的なタッチ(打鍵法)の要素
  自然なタッチにめぐまれた素人
第三部
  美しい音の秘密
  よくひびき、よく歌う音
  丸みのある音を出す手くびの使い方







第四部
  繊細(デリケート)な奏法
  メカニズムに関すること
  腕の力を抜いてひくこと
  自分自身への大切な質問
  力強い奏法とその意義
  自然のショック・アブソーバー(手くび)
  正確にひくことについて
第五部
  正確にひくことに関する話
  演奏を不正確にする二つの要素
  スタカートの奏法
  きれいなレガード奏法の基礎
  ちょっと止めて、聴いてください
第六部
  暗譜に関する話
  毎日の練習について
  異なる練習法をとること
  速く廻る指をつくるには
  勇壮華麗な大曲の危険
  ペダルの危険
本文中より pick up

『休止符への無関心と休止符の意義』より・・・

休止符の効果は往々にして音が出ているときよりはるかに大きいのだ。休止している無音の状態は、次の瞬間に起こることに人の耳をそばだてさせ、聴く人の心を準備させる。

『リズムに関する勉強』より・・・

音楽の気分はテンポのとり方によって変わるが、リズムとは、いかなる場合にも音楽の底をくずれずに脈打っていなければならない。

『ピアニストになる基本的条件』より・・・

スケールをひくとき、そのスケールが途中から始まっていても、その音から基本的に、さっと正しい指使いで弾けるようでなければならない。
スケールの練習の本当の価値は、正しい指使いを身につけることで、どの調性の曲をひいても自動的に正しい指使いを使えるようにすることだ。

『聴音の訓練の価値について』より・・・

大部分の生徒は、自分のひいていることを聞くことはできるが、聴こうとしない。「優れた生徒は聴くことを知っている生徒だ。」とは進んだ生徒を教える先生方が口を揃えて言われる事実だ。

『理想的なタッチ(打鍵法)の要素』より・・・

私に言わせれば、タッチとは最も芸術的な指先が、最も素直に打鍵できるように、必要のない余計な動作をすべてとり除くことだと思う。
理想的なタッチとは、指のつけ根の関節だけを使って、指を鍵盤の底までしっかりおろしてひくことだ。

『美しい音の秘密』より・・・

よくひびき、人の心に語りかける音を出すには、まず原則として、指の最も弾力性のある部分(指の頭から少し第一関節に入った部分)で鍵盤をひかなければならない。

『丸みのある音を出す手くびの使い方』より・・・

手くびは常にやわらかく保たなければならない。手くびのバネを使えば使う程、音の固さはとれ、丸みのあるきれいな音になる。固い手くびこそ、汚い音をつくる原因になるのだ。

『メカニズムに関すること』より・・・

腕は、前部と肩につながる上部とも力を抜き、軽くして、演奏者は、腕全体が空中に漂っている感じに保つ。

『腕の力を抜いてひくこと』より・・・

繊細な奏法は、鍵盤を完全に打鍵しないでは得られない。
いつも指先を鍵盤の表面に近い位置に用意してひくことだ。

『自分自身への大切な質問』より・・・

・腕は空中に漂っているように力が抜けているか?
・鍵盤は底まできちんと下ろしてひいているか?
・指先はいつも鍵盤の表面に用意されているか?

『力強い奏法とその意義』より・・・

アントン・ルビンシュタインは、フォルテ(強い)のパッセージをひくときは、体と肩の重みを完全に利用したのだ。

『演奏を不正確にする二つの要素』より・・・

実は左手こそ演奏に高い水準と実質をもたらす重要な要素なのだ。
左手のパートを何遍も何遍もくり返しながら、左手に個性と独立性と実質を授けるように練習する。

『きれいなレガード奏法の基礎』より・・・

二つの音をつなげるときには、必ず二つの音が同時に存在する瞬間がある。
ピアノでひかれる模範的なレガートとは、隣り合う二つの音が、おたがいに双方の音の中に流れ込んでつながるようでなければならない。

『ちょっと止めて、聴いてください』より・・・

・君は、作曲者の意図と気持ちを聴衆に伝えているだろうか?
・君は、自分で感じたこと、欲することを聴衆に伝えているだろうか?
何はともあれ、必ず何かを表現してひいてくれたまえ!

『速く廻る指をつくるには』より・・・

速く廻る指をつくる一番大切なことは、手から無駄な力を抜き、腕を空中に漂わせるように楽に保ってひく習慣をつけることだろう。
君たちは自分の弱いところをのばすように勉強しなければならない。得意なことは放っておいても自然にのびてゆくものだから。

『ペダルの危険』より・・・

ペダルが芸術の香り高い演奏で理想的に使われているときは、聴衆がペダルを使っているのに気がつかないときだ。